つくり手のことば
(2023年6月時点)
「酢造りは酒造りから」
という言葉は、「再構築」する
感覚から生まれた
うちは基本理念として「酢造りは酒造りから」を掲げていますが、酢造りが好きだったことももちろんありますが、どうすれば会社が生き残れるかを考えたことが大きかったように思います。酢造りで生きていくなら、特徴ある商品造りをしないと生き残れない。であれば、「酢とはどうあるべきか」を一生懸命考えました。
昔ながらの発酵方法を大切にして守り続けていく方法もあると思いますが、うちはどんどん新しいことに挑戦していきたい。そういう感性で動き出した頃だったと思います。つまり、「酢造りは酒造りから」という言葉は、「酢造り」というものを一度バラバラに分解して、もう一度組み立ててみるという「再構築」する感覚から生まれたのだと思います。
だから、臨醐山黒酢ができた当時と今とではものが違うわけです。前のやり方が一番良いと思って固執することなく、少しずつ変えている。「内堀の酢って面白いね」とお客さんに言ってもらえることが、内堀醸造らしさだと思うからこそ、常に進化、常に挑戦する姿勢が大事だと考えています。
余分なものを削り、
純粋性を高めた先にある
本当に「きれいな酢」へ
我々の酢造りは今なお、本当にきれいな酢を目指す過程の途中にあると思っています。きれいな酢のためには、昔ながらを守り続けることがすべてではありません。今を生きる人々や暮らしに寄り添いながら、発酵の原理原則を突き詰めて余分なものを削ぎ落とし、純粋性を高めていく。まだ見ぬ本当にきれいな酢を目指し続けることが引き金となり、私たち自身の意識も変化してゆくことで、お客様とのコミュニケーションの取り方や臨醐山黒酢への向き合い方が変わってくれば、おもしろいんじゃないかなと思っております。
厳しい環境設定と
細かな技術の積み重ねが、
臨醐山黒酢の味を支えている
Q. 臨醐山黒酢と他の黒酢の違いは
どこにありますか?
まずは見た目が違います。玄米を使っているからということに加えて、弊社の通常の米酢や一般的な黒酢の規格で定められた米の量よりも多くの米を使用しているため、艶のある黒色をしています。さらに、米麹をしっかりと使った伝統的な多段仕込みによる酒造りを行うことで、米の旨みと甘みを丁寧に引き出しています。それにより、玄米の甘みをほどよく感じられる臨醐山黒酢が生まれています。また、発酵をじっくり行うことで、独特なクセの少ない黒酢になります。
さらに、黒酢のエキスや目標とする酸度などが、他の酢よりも厳しい設定値になっており、その徹底した環境設定が臨醐山黒酢の色や香り、そして味を支えています。
1997年発売の当社のロングセラー商品となりますので、かなりの時間をかけて高い技術を注ぎ、日々進化させて参りました。
その上で、さらにより良い香りのきれいな酢を造るために、工程や温度の設定、設備の洗浄方法などの改善を続けています。だからこそ、同じ商品でも10年前と5年前では少しずつ変化していると思います。
Q. 「きれいな酢」とはどういうものでしょうか?
独特のクセが少ない、できるだけ純粋性の高い酢を指します。そのためには、できるだけほかの雑菌が入らないように酢酸菌を発酵させていくことが大事になってきます。きれいに発酵させるということが、結果的に香りのいいきれいな酢造りになる。自然を活かしながらも自分たちの技術で、きれいに発酵させていくことが必要です。その技術が臨醐山黒酢には余すことなく活かされています。
Q. 商品を造る上で大切にされていることについて 教えてください。
醸造した酢を瓶詰めして商品化する過程で、濾過工程や殺菌工程を経て、安心・安全な間違いのない商品を提供することを一番大切にしています。それは企業として当たり前のことですが、簡単なことではありません。お客様に安心してお使いいただける商品を、当然のように造り続けることが大事だと思っています。
さらに、「造り」を大事にしています。それは原料も自分たちで可能な限り加工して、酢を造るということです。例えば、酢を造るために、日本酒から造る。日本酒を造るために、精米機を所有する。米麹を造るし、商品によってはだしも自社でとる。あとは、米から甘酒を造り、その甘酒の甘みを活かした合わせ酢を造る。というようにできるだけ原材料から自分たちで加工して造っています。それは、見た目も香りもきれいでおいしい酢をお客様に味わっていただきたいという心から、会社全体で徹底して酢造りに取り組んでいるからです。その意識を常に大切にしながら、よりよいきれいな酢を目指し、今後も挑戦していく姿勢を貫いていきたいと思います。
他とは違う環境、だからいい
Q. 普段はどんなお仕事をされていますか?
商品開発課という名のとおり、研究開発で造られた酢といろいろな調味料などを組み合わせて、ボトルに詰める中身を造っています。また商品の味をより良くしていく調整も日々行っています。
Q. 臨醐山黒酢のようにすでに商品の味がある中で、さらによりよく変えていくのは簡単ではないですよね?
はい、難しいです。主体は商品開発なのですが、弊社には官能検査員という品質管理を中心としたメンバーもいるので、一緒に味を見たりもしています。臨醐山黒酢というのは、とりわけ難しい組み合わせで味が構成されています。醸造物であるため、製造時の環境によって、どうしても風味にわずかなブレが生じますが、このブレをできるだけ少なくするために、いつもお客様目線になって風味を調整することを心がけています。実は私の母もずっと臨醐山黒酢を飲んでいまして、毎日飲んでいるからこそ、味について敏感でとても細かく教えてくれるのです。私が黒酢の調整を担当していた頃、迷ったときには母だったら何と言うかなと想いを馳せながら味を見ていました。
調整させていく一方で、臨醐山黒酢の守りたい部分ももちろんあります。例えば、黒酢はクセが強いイメージを持たれているのではないでしょうか。だからこそ、きれいな香りだったり、酸味がまろやかだったり、優しいお米の甘みがしたり、という臨醐山黒酢ならではの特徴は守りたいと思っています。その中で、少しでもよりよいものをという意識で改善している感じですね。
Q. 会社として大切にされている
「水と空気と微生物」について細野さんが感じることはありますか?
このあたりの水は硬度が極めて低い上質な軟水なのですが、実は水がきれいすぎると、発酵しづらいのです。ですが、酢の中は水が大部分を占めています。食品なので、仕込みに使用する水はより清らかであるべきだと思います。だから、その水を大事にしながら、発酵しにくい環境でも技術を磨いてより良いものにしていこうという会社の姿勢が私はいいなと思います。
そうした、あえて難しい環境下でもやっていけるという覚悟と、試行錯誤の積み重ねで今の技術が築かれている気がしています。それが内堀醸造の個性であり、だから変化し続けていられるのかなと。
私は外部の方と接することが多いので、「うちは他とは違うんだな」ということを感じれば感じるほど、「だからいい」と言い切れる。その点はこれからも大事にしたいなと思っているので、できるだけ他の社員にも伝えようとしています。