医食同源に根付いた中国の家庭料理とともに中国の暮らしや文化を伝えているウー・ウェンさん。料理もライフスタイルも、考え方もすべてがシンプル。その潔く、美しい料理と生き方にファンは多い。中国・北京で生まれ育ったウー・ウェンさんにとって、黒酢は欠かせない調味料だといいます。「中国でお酢といえば黒酢のこと。私の料理でお酢を使わないものはあまりないかも」とのこと。黒酢は日本産と中国産の両方を使っているそうで、臨醐山黒酢も20年以上愛用しているとか。それぞれの黒酢をどんなふうに使い分けているのでしょうか。
「食生活は基本が大事。基本の調味料がしっかりしていれば、素材を生かしてシンプルに調理ができます。お化粧で言えば、調味料はベースメイク。土台がしっかりしていれば、きれいにお化粧ができるのと同じです。私は、水と油と塩が一番の基本ですが、次に大事なのがお酢。油も塩も摂りすぎに注意が必要ですが、お酢はいくら摂っても大丈夫。むしろ、お酢を加えることで塩分控えめの薄味でもおいしく仕上がり、減塩効果があるので、使えば使うほど健康にいい。うちのお酢の消費量は、しょうゆより多いです」
ウー・ウェンさんの育った中国では、「黒酢」という言い方をすることはなく、北京酢、上海酢、鎮江香酢、山西陳酢というように地名で表現するといいます。
「日本のお味噌みたいなものですね。地方によって特徴があり、みんな自分の好みで使い分けています。北京の人だったら、あっさりとして軽やかな北京酢と濃厚な山西陳酢を2本そろえている人が多いです。日本のお酢でいえば、山西陳酢に近いのが臨醐山黒酢。淡々としたパッケージにモノづくりに対する自信を感じて手に取りましたが、うま味があってすごくおいしい。臨醐山が地元のお寺の山号に由来していると聞いて、中国と同じく産地をうたっているところにも親しみを感じました」
お酢を2本そろえるのは、料理に使う裏方としてのお酢と、そのまま食べる食品としてのお酢の2種類があるからだと言います。
「裏方として隠し味にするお酢は、ジャバジャバ使える軽やかなお酢のほう。臨醐山黒酢は香りが高く、まろやかな酸味とコクが特徴の濃厚タイプなので、表に出すほうのお酢。餃子などの小麦粉料理のたれや酢豚の味つけには必ず濃厚タイプを使います。本場の中国の味を出そうと思ったら、もちろん中国の黒酢を使ったほうが正しい味になります。でも、日本で日本の方が作って食べるわけですから、日本の黒酢のほうがライフスタイルにフィットしますよね。ですから、料理教室の生徒さんには臨醐山黒酢をお勧めしています。教室が終わった後は、近所のスーパーから臨醐山黒酢が消えてしまって、私が買えずに困ったこともありました(笑)」
というわけで、今回作ってくれたのは、黒酢を使った代表的な中国料理の黒酢豚。とはいえ、日本でおなじみの酢豚のように、赤パプリカや玉ねぎなどの野菜もなければ、パイナップルも入りません。黒酢と豚肉だけという潔さ。これが北京風酢豚なのだそう。
「酢豚は角煮とは違って煮物ではありません。黒酢ベースの合わせ調味料を加熱して煮詰めると甘みとコクが出て、まろやかになる。それを豚肉にからめて纏わせる料理です」
艶々とした豚肉のなんとおいしそうなこと。しょうがとにんにくの風味が食欲をそそります。
「シンプルだからこそ、黒酢の味が決め手になります」
そしてもう一品、小麦粉料理として教えてくれたのが和え麺です。
「北京の小麦粉料理にお酢は欠かせません。日本のお米の甘さを引き出すのが塩だとしたら、中国の小麦粉の甘さを引き出すのがお酢。北京ではバルサミコ酢にも似た長期熟成の芳醇な山西陳酢を使いますが、日本なら臨醐山黒酢です」
黒酢と練りごま、しょうゆを同量で合わせたたれは複雑味があり、甘みを一切加えていないのでさっぱりとしてヘルシー。
「麺にはもちろんサラダや蒸しなす、豆腐、ゆで豚と、何にかけてもおいしい万能だれです。健康な食生活のためにも、黒酢をどんどん活用していただきたいですね」
中国・北京生まれ。ウー・ウェン クッキングサロン主宰。1990年に来日し、友人、知人にふるまった中国家庭料理が評判となり、96年にサロンを開設。万能中華鍋「ウー・ウェンパン」やご飯釜「ワンズポット」など調理道具のほか、食器なども監修。近著『ウー・ウェンの煮ものあえもの』(高橋書店)、『10品を繰り返し作りましょう』(大和書房)のほか、著書多数。