内堀醸造の本社がある岐阜県加茂郡八百津町のお隣、美濃加茂市出身の長尾明子さんは、出身地にちなんで「minokamo」という屋号を掲げています。子どもの頃から食べることと絵を描くことが大好き。その延長で写真にも興味を持つようになり、現在は料理家、写真家、イラストレーターの三足のわらじを履いて活動しています。「minokamoという屋号からもおわかりのように、私は郷土愛がものすごく強いんです」という長尾さん。実家の隣町で造られている内堀醸造のお酢も「もちろん愛用しています!」とのこと。どんなお酢生活を送っているのかお話を伺いました。
「岐阜の実家を出て、京都や東京で一人暮らしをしていたとき、母から送られてくる荷物の中に、臨醐山黒酢の大瓶がよく入っていました。母が内堀醸造のお酢だと認識していたかどうかはわかりませんが、無意識のうちにずっとお世話になっていたんですね。もちろん今は、隣町で造られた郷土のお酢として、他のお酢以上に愛着を感じていますし、酸味が強すぎずバランスがいいので、どんな料理にも合わせやすいところが気に入っています。一番よく使っているのは美濃有機純米酢ですが、美濃有機純りんご酢や美濃有機玄米酢、臨醐山黒酢など、料理やそのときの気分によって使い分けています」と手にしていた竹かごには、内堀醸造のさまざまなお酢が詰まっていました。スパイスボックスならぬ、お酢バスケットのなんと愛らしいこと! 長尾さんの並々ならぬお酢愛が伝わってきます。
「私はとにかくお酢が大好き。酸っぱい味はもちろんのこと、食材の保存性を高めてくれるところが素晴らしいですよね。出張など旅先にはよく美濃特選すし酢を持って行くんです」さすがにボトルのままでは嵩張るし重いので、小さなペットボトルに詰め替えて、バッグの中に忍ばせていくのだそう。
「旅に行くと、地元の人たちが日常の暮らしのなかで、どんなものを食べているのかを知りたくて、必ずスーパーをチェックします。特に魚コーナーを見ているとワクワクして、いてもたってもいられなくなるんです」
なんと長尾さん、スーパーで買ったお刺身を、袋詰めコーナーにあるビニール袋に入れ、持参したすし酢をパパっとふりかけて軽くもみ、宿泊しているホテルに持ち帰るのだといいます。
「友達にも笑われちゃいます。ちょっとお行儀が悪いのですが、いい具合にお刺身が酢締めにされるんです。電子レンジでチンできるパックご飯や野菜も一緒に調達しておけば、翌朝、お刺身をご飯の上にのせて海鮮丼にしたり、おにぎりのおかずにしたり。おにぎりも、酢飯にして黒ごまを混ぜるとおいしいですよ。”マイすし酢ボトル”のおかげで、旅先の朝ご飯の充実度が格段に上がりました」
全国各地へ赴き、各地の郷土料理を紹介したり、その土地の食材でレシピを提案したりしている長尾さん。そもそも祖母と過ごした経験と味が、現在の活動の基盤になっているといいます。
「今は東京と岐阜に拠点があり、岐阜では祖母が暮らしていた築100年ほどの家をベースにしています。子どもの頃、祖母の家に遊びに行くと、赤かぶ漬けや朴葉寿司、味ごはん、みそ玉……といった料理で迎えてくれ、大人数で囲む食卓の楽しさをおのずと知りました。
Instagramの肩書に『料理』と『写真』に加えて『宴』とあるのは、そのせい(笑)。楽しく、おいしくがモットーです」
取材に訪ねた日も、今回教えてくれる料理の手書きメニューを、可愛いイラストと共にホワイトボードに貼り出してくれていました。
一品目は、大根と人参のせん切りを甘酢で漬けた紅白なますです。
「お正月の定番料理ですが、冬の食卓に彩りを添えてくれる紅白なますの出番がそれだけだなんてもったいない。今回は気軽に作れるよう、ボウルひとつで作れるレシピをご紹介します。あくまで日常の料理なので、皮ごとでも、太さが多少バラバラでも、食感にニュアンスが出ておいしいので、気にせず楽しんで作っていただけたらうれしいです」
瑞々しい大根のシャキッとした歯ざわりと、人参のやさしい甘み、酢の爽やかな酸味が絶妙。さっぱりとしていながら、旨みがじんわり広がり、口の中を清めるような清涼感は箸休めにうってつけ。時間が経つほどに味がなじんでいく、その変化も楽しめます。
「基本の紅白なますは、まろやかな美濃有機純米酢で作りましたが、純米大吟醸酢ならすっきり軽やかに、美濃有機純りんご酢ならフルーティで香り高い仕上がりになります。酢の種類によって違う味わいも楽しんでみてください。最後に残った汁は、焼いた豚バラ肉とスライス玉ねぎにかけて混ぜたり、手羽元を煮る時の調味液にするのもおすすめです」
二品目は、紅白なますをアレンジした「なますタルタル」。
「タルタルソースにおけるピクルスの役割は、酸味とシャキシャキ感。だったらなますでもいけますよね。むしろ彩りのいい華やかなタルタルソースになります」
紅白なますの水けをしぼって細かく刻み、ゆで卵とマヨネーズで和えた和風の味わい。人参のオレンジ色がアクセントになったタルタルソースは、大根と人参のポリポリとした食感が小気味いい。ご飯にもぴったりの味です。
そして最後は、長尾さんが長年よく作っているという万能玉ねぎマリネ。
薄くスライスした玉ねぎを、しょうゆと酢、はちみつ、油で和えるだけ。「またの名を”おかず玉ねぎ”。何にかけてもおいしいですが、ご飯にかけるのが個人的には一番好きですね。お酢はお好みですが、コクと旨みが強く、香ばしさとまろやかな酸味の美濃有機玄米酢を使うと、よりおかず感が増します」
まろやかな酸味、ほどよい甘み、そしてコクのある旨みがたまらない。ご飯にかけると、本当に箸が止まらなくなります。そのままでも、料理のコクだしとしてもスグレモノ。明日の自分を助けてくれる、常備しておきたい一品です。
東京と岐阜(祖母が暮らした築100年ほどの古民家)の2拠点で活動。岐阜で祖母と過ごした経験がきっかけで、全国に赴き、地域の食材や食文化から、現代にも馴染むレシピを考案。日常の食卓が豊かになる器使いの提案やフードスタイリング、旅の執筆も手がける。著書に『つつむ料理~焼売/餃子/肉まん/おやき』(技術評論社)『みそ味じゃないみそレシピ』(池田書店)『粉100水50でつくる すいとん』(技術評論社)『料理旅から、ただいま』(風土社)『ふるさと雑穀のっけごはん』(みらい出版)がある。
取材日:2025年12月26日
(Edit & Text : Noriko Wada Photo: Yosuke Suzuki)